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クロノグラフに革新的であることを望むのは酷である。

技術革新という点では、MB&Fと時計師/組立師のスティーブン・マクドネル(Stephen McDonnell)によるMB&Fのシーケンシャル エヴォ(Sequential EVO)における垂直クラッチの新しい構成など、いくつかの特許出願中の技術革新が導入されていることがビッグニュースとして報じられている。何度も、嫌になるほど繰り返している話だが、何年か前、非常に複雑な高級時計コレクションの全盛期にラ・ショー・ド・フォンにあるカルティエの工場を訪れたとき、その時計の製品開発とムーブメント開発を担当していたキャロル・フォレスティエ(Carole Forestier)に、トゥールビヨンとクロノグラフのどちらが難しいかと尋ねたところ、彼女は私を憐れむような眼差しで、「どんなボンクラでもトゥールビヨンはデザインできるわ。クロノグラフはとても難しいのよ」と言った。私はそれを心に留め、1844年に時計職人のアドルフ・ニコル(Adolphe Nicole)がハートカムを発明して以来、クロノグラフのデザインに真の革新がほとんど見られなかったのは、そもそもクロノグラフが難しいということが理由にあるのではないかと考えている。

とはいえ、私はこの時計が素晴らしいと思っている。デザインは論理的で明快、そして魅力的だ。ダイヤル側のデザイン要素を縦軸と横軸からわずかにずらすことで、従来の多くのクロノグラフのデザインよりも視覚的なおもしろさが増しているように思う。私は常々、クロノグラフはあともうひとつ何かを付け加えずにはいられない誘惑でデザイナーの最悪な面を引き出すものだと思うが、時計界の名物兄弟は、デザインと時計製造における革新の両方において、賞賛に値する仕事をしてくれたと言いたい。

そして、このムーブメントには本当に驚かされた。手巻き、水平クラッチ、コラムホイール式クロノグラフの自然な美しさをベースに、機械的に非常に巧妙な革新的技術によって、美しい外観を作り上げた(技術革新が常にそうであるとは限らない。垂直クラッチは間違いなく水平クラッチより技術的に優れているが、その強力な支持者でさえ美観にあまり貢献できていないと認めざるを得ないだろう)。美的感覚とエンジニアリングがこれほどまでにシームレスに統合されたとき、それが真の時計製造と呼べるものなのだ。

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